「静かな退職」という言葉が広がってから、
それをする人を「結局は、怠けたいだけではないか」と見る声もよく聞かれるようになりました。
与えられた仕事以上のことはやらない
責任を増やしたがらない
会社に強くコミットしない
そういった態度は、どうしても消極的に見えます。
そのため「やる気がない人」「楽をしたい人」と受け取られることがあります。
ただ実際の職場を丁寧に見ていくと、静かな退職を選んだ人の多くが、最初から怠けていたわけではないことが分かります。
むしろ最初は真面目に関わり、その関わり方が消耗に変わっていく経験をした末に、静かな退職を選ぶケースが少なくありません。
静かな退職を「怠けたいだけ」と言えるのかという問題は、「職場で何が起きているのか?」という構造まで見た方が、実態を理解しやすくなります。
詳しく解説していきます。
静かな退職が「怠け」に見えやすい理由
静かな退職が怠けに見えやすいのは、行動だけを見ると確かに消極的に映るからです。
昇進を望まない、余計な責任を引き受けない、必要以上に働かない……という姿勢は、組織に強く関わろうとする働き方とは、対照的に見えます。
そのため周囲が無理をして職場を回している環境では、静かな退職をする人が「自分だけ負担を避けている人」のように見えることがあります。
特に日本の職場では、無理をしてでも組織に合わせることが、誠実さとして評価されやすい文化があります。
断らないこと、空気を読むこと、担当外の仕事でもやる、という態度が良い社会人として扱われやすい。
そのため、そこから距離を取る働き方は、それだけで 怠けや甘えと判断されやすくなります。
しかし、この見え方には一つの問題があります。
周囲から見えているのが「いま現在の態度」だけだという点です。
静かな退職を選ぶ人は、最初からやる気が低かったわけではない
静かな退職を選ぶ人を「最初から意識が低い人」と考えてしまうと、かなり重要な部分を見落とします。
静かな退職をしている多くの人は、最初から最低限だけ働こうとしていたわけではありません。
最初は、仕事に一生懸命 取り組んで、役に立とうとし、期待に応えようとしながら働き始めています。
こうした姿勢は特別な熱意というより、職場にしっかり貢献しようとするごく普通の前向きさです。
むしろ真面目な人ほど、最初は自然に多くのことを差し出しています。
困っている人を助けたり、担当外の仕事でも拾ったり、問題が起きそうな部分を先回りして処理したりする行動は、「ちゃんとやる人」であろうとする感覚から生まれるものです。
問題は、その前向きさが職場でどう扱われたかです。
頑張った人ほど仕事が増え、気づいた人ほど面倒な役割を背負い、責任感のある人ほど他人の仕事を押しつけられる。
こうした経験が続いて、「この環境では、頑張って仕事をするほど損をする」という感覚が生まれるのです。
努力が評価されない職場では、人は距離を取り始める
人が仕事に熱量を出せるのは、「努力が報われる」という感覚があるからです。
報われる というのは、昇進や給料に限った話ではありません。
評価してもらえている感覚や、信頼されている実感などを含みます。
こうしたものがあるからこそ、人は頑張って仕事をしようとします。
しかし頑張るほど仕事が増える職場では、前向きに仕事をすると、自分の首を絞める事になります。
改善提案をした人がそのまま担当になる、問題に気づいた人がトラブル処理をさせられる、責任感のある人ほど損な役割を任される……。
このような状態が続いた結果、人は静かな退職を選ぶのです。
静かな退職をする時、その人はやる気が無いのではありません。
「頑張るほど負担が増えるならば、頑張るのはやめよう」
という考えのもと、静かな退職をせざるを得ないのです
必要以上に深く関わらない、責任を増やさない、与えられた範囲で仕事を終える……。
これは怠慢というより、「これ以上同じやり方で頑張ると自分が持たない」という危機感から生まれる行動であることも 少なくありません。
「怠け」と「自己防衛」は同じではない
ただし静かな退職をすべて正当化できるわけでもありません。
ここで大事なのは、怠けと自己防衛を混同しないことです。
自分に割り当てられた作業をロクにやらず、周囲への負担だけを増やしているのであれば、それは静かな退職ではありません。
単なる”怠け”であり”職務怠慢”です。
一方で担当業務はきちんとこなした上で、誰の担当なのか曖昧な仕事や 必要以上の仕事をしない という態度ならば、それは単なる職務怠慢とは言えません。
つまり「静かな退職=悪い」という図式は成立せず、「どのような背景で生まれたのか?」という視点を持って判断すべきといえます。
まとめ
静かな退職を選ぶ人は、一律に怠け者とは言えません。
表面だけを見ると、怠けているように見えることがありますが、その背景には努力すると仕事を押しつけられた経験や、努力を良いように扱われた経験が存在するのです。
多くの人は最初からやる気が低かったわけではなく、一度は仕事に一生懸命に打ち込んだ末に、熱量を引き下げているのです。
もし職場で 前向きに仕事をしていた人が静かになり、改善提案が減り、余計な責任を避ける空気が広がっているなら危険信号。
それは、単なる怠慢ではなく、組織の設計自体に問題があるサインかもしれません。
本当に問うべきなのは「なぜこの職場では真面目な人ほど、静かな退職をするのか?」と、職場の構造の方なのです。

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